現在、絶賛発売中のFight&Life誌の巻頭でも特集されているが、
五味隆典が3月31日にUFCに出場し、ケニー・フロリアンと対戦する。
大会開催地はノースカロライナア州シャーロット、
会場はボージャングルズ・コロシアム。
ボージャングルズは、ケイジャン風味のフライドチキンとバターミルクビスケットを
扱うファーストフード・チェーンで、南部ではそこそこ有名らしい。
が、なんだか、決戦の場としてはふぬけた会場名だ。
もとは1955年に造られた歴史と伝統を誇る公営のシャーロット・コロシアム。
築55年の体育館は、1994年9月にUFCが初めて当地でイベント=UFC3で
使用したグレイディ・コール・センターの築56年に匹敵する古い建物だ。
ちなみにUFC3は、初めてライブで目にしたUFCで、
8人制ワンナイトトーナメントで、素手、
急所への攻撃や髪の毛を掴む行為を許されていたと記憶している。
UFCに初遭遇した街の響きからか、
このアリーナの古さが、流行のMMAというスポーツでなく、
命を賭けて戦う格闘技という場に、ちょっと相応しいという気がしている。
ただのノスタルジーと指摘されれば、それまでだが、
五味にとって正念場、キャリアを賭けた決戦となることは間違いない。
彼のキャリアを考えると、最後の大勝負、その第一歩といっても、
なんら問題はないだろう。
本誌でも、さんざん指摘されているが、過去2年、
五味の総合格闘家としての、評価はPRIDE武士道時代と比較して、暴落した。
戦績4勝2敗、ヒリヒリとした五味らしさが垣間見られたのは、
昨年5月の中蔵隆志戦だけだというのが、自分の考えだ。
それがモチベーションの枯渇によるものなのか、
あるいは、彼の能力を表しているのかは、分からない。
そんな状況で迎える、UFCデビューとケン・フロという対戦相手。
ただでさえ海外では、苦戦を強いられるという印象が強い五味。
99年5月ハワイのステファン・パーリング戦。
03年10月、同じくハワイ。ROTRのBJ・ペン戦、
07年2月のラスベガス、PRIDE USAのニック・ディアズ戦。
国外でのMMA通算戦績は1勝1敗1NC。
ボーゾーに勝ち、BJに負け。
ディアズ戦は、ゴゴプラッタでタップをしたが、
勝者にマリファナの陽性反応が出たため、結果はノーコンテストに改められた。
ハワイの2試合を取材した身として、やはり強く印象に残っているのは、
ランブルオンザロックのBJとの戦いだ。
テイクダウンを奪われ、打撃戦でもリードされたうえで
リアネイキドチョークで一本負け。その結果以上に
この試合に挑む、五味陣営の準備、覚悟という部分で自分は大いに疑問を感じていた。
計量の席で、五味がマネージャーに尋ねた「ダウンは何回まで?」という台詞。
当時、彼が主戦場にしていた修斗は、ダウン制を敷いていたが、
世界に広まったMMAでいえば、プロ修斗特有のローカルルールでしかない。
そんなルールの違いを、試合前日になって彼は把握していなかった。
「何をいまさら、そんなことを言っているのか」という疑問が、
自分の顔に表れたのだろう――当時の彼のマネージャーが、
『負けてもいいんです。ここで学ぶものがあれば』――という言葉を発した。
正直、呆気にとられた。
「負けてもいい? ケガをし、選手生命、
いや生命に危険が及ぶということは考えないのか?」、素直に感じた自分の言葉は
当時、どこかの記事で記したはずだ。
BJ戦のちょうど2カ月前にヨアキム・ハンセンに敗れ、
修斗世界ウェルター級王座を失っていた五味とその陣営は、
とにかく勝利に飢えていたように自分は感じていた。
なら、普通に手ごろの対戦相手と、復帰戦に挑めばいい。
それをサヨナラ満塁ホームランで、ヨアキムとの敗戦を払拭するような
BJとの大勝負――、ファイターなら誰でも勝負に出る。
ただし、陣営としては踏みとどまる必要があったのではないか。
この意見も、どこかで記した。
試合に関して。初めてのケージで、金網際でテイクダウンを奪われたことに対し、
五味陣営は「もっとレスリングの練習が必要だ」と、次を強調した。
これに対し、テイクダウン後の処理、柔術的な寝技が五味には欠けている――、
長所を伸ばすだけでなく、短所を補う必要がある。
五味が柔術を習得すれば、鬼に金棒だと記事にした。
結果、当時の五味のマネージャーから、取材拒否を言い渡された。
「仕事を休んで、ハワイまで来てくれたコーチたちに、あの原稿はないですよ。
負けたのは俺だったんだし。悪いのは俺なのに……」
五味の仲間を思う気持ちは、取材拒否を受けた後に交した言葉で伝わって来た。
五味陣営は、BJに敗れても、MAXで魔娑斗戦という進路も選択肢に含まれていた。
ひょっとすれば、それが本命だったかもしれない。
谷川さんが、五味の試合を確認するために修斗のビデオを確認したとき、
そのビデオに収められていたKIDに魅せられていなければ、
五味も日本の格闘技界も、その後の辿った道は全く違ったモノになっていたかもしれない。
ともあれ、五味はPRIDEという場で、長所を伸ばし、世界最強の称号を手にした。
例えF1チームのファーストドライバーのように、
PRIDEライト級という場は、五味を中心に回っていたとしても、
あの間の五味の強さには、何も口を挟む余地はない。
今もあの当時と同じ強さを持っていると、多くの関係者が期待を寄せている。
そんな高まる期待のなか、
水を差すようだが、
五味が往時の力を持ち、モチベーションが高かったとしても、
初めてのUFCで、対戦相手がケン・フロという状況は厳しい。
そんな彼のUFCデビュー戦に関して、
やたらとケン・フロのヒジを警戒する声が高まっている。
至極簡単、ヒジはUFCと日本の総合の違いを指摘しやすいアイテムだからだ。
もちろん、五味はヒジに不慣れで、警戒が必要だ。間違いない。
ただし、ヒジはあくまでもケン・フロの手ごまの一つでしかない。
左ミドルもそうだし、ステップワークもそう、
ヒザ蹴り、パスガード、マウント&バックキープと同じように
ケン・フロが持つ一つの武器だ。
多くの人がケン・フロのヒジを警戒すべきと声高に叫ぶ理由は、どこにあるのか?
五味が、ケン・フロのヒジで、KOされるからだろうか?
他人様の考えなんで、断定はできないが、
それはつまるところ、カットして流血――するからだと思われる。
どれだけ優勢に試合を進めていても、
ヒジでカットし、TKO負けを喫する。そんな不完全燃焼の試合は見たくないし、
五味にそんな思いをしてほしくない。だから、ヒジに警戒しろ――というのが、
大方のヒジ警戒説の核心に違いない。
五味陣営には、ヒジを過剰に意識してほしくない。
UFCは多少の流血では、試合が終わらない。
良い、悪いでなく、事実として
日本では考えられないような、血の滑りのなかで試合が続けられることが多い。
もちろん、どんな攻撃だろうが、受けない方が良いに決まっているし、
カットだってしないにこしたことはない。
よって、ヒジだって注意すべき攻撃だ。
注意すべき、攻撃の一つだ。
ヒジという見えやすい違いに目を奪われて過ぎて、
他にも存在する警戒すべきポイントを見逃してしまうことの方が、自分は怖い。
五味がロジャー・フエルタや、クレイ・グィダの二の舞にならないには、
何をすべきか。その答は自分には分からない。
ただし、BJ戦の敗北後、苦手のガードワークの習得に励まなかった五味だからこそ、
得意のボクシングとレスリングで勝負してほしい。
この2つの要素を、如何に疲れないように使えるのか。
日本の総合よりも、ずっとブレイクのタイミングが遅いUFCでは、
ケージ際でのレスリングの攻防、ガードを強いられた場合など、
レフェリーのストップを待つのではなく、対戦相手が動いている限り、
自らの力で、その状況を打破する必要がある。
その状況が長ければ長いほど、体力を削られる。
体力を削られれば、判断力は鈍り、
日本人の最後の砦「精神力」だって、長続きするわけがない。
心肺能力をあげる。
打撃と組み技の移行で生じる間を、0.1秒でも早める、
どの動きを筋肉に記憶させるトレーニング=反復に
ヒジよりも――とはいえないが、ヒジと同様に時間を割くべきだ。
ケージに追い込んでテイクダウンを狙う際の頭の位置。
リングのようにコーナーがないオクタゴンでの追い足。
ヒジを想定するように、これらの動きも想定する必要がある。
いささか暴力的な表現を使うなら、
五味のUFC挑戦は勝とうが、負けようが、その敗北に関わらず
ケン・フロ戦の1試合で終わるものではないはず。
だからこそ、ヒジという分かりやすい部分でない、
ケージMMAの深淵部で、
五味の長所が最大限にいきるアレンジを施す必要がある。
深く考える必要なんてない、
五味本人が口にしているように、アメリカでの試合を楽しむために、
少しでも戦いやすい状況を創ることを、陣営として楽しみながら用意してほしい。
過去2年は当然として、PRIDE時代とも違う五味隆典をオクタゴンで見てみたい。
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【 2010年02月26日 18:01 】http://www.fnlweb.com/mtv33/mt-tb.cgi/4939