【最新号】Fight&Life vol.12

>>>アマゾンで購入する
>>>バックナンバーはこちら!
「日本で、ギを着たグラップリングの試合に初めて出場したことを誇りに思っている」
自らのアカデミーの壁に、飾られてある格闘技通信の切り抜きを見て、
ジャンジャックは、落ち着いた笑みを浮かべた。
LAXから運よく渋滞がなければ30分?40分か、
普通に渋滞していれば、どれだけかかるかは不明。
ロサンゼルス郊外、405から101に入り、タルサナのレセダ通りで下り、
少し北上してオクスナード・ストリートを左折すると、
ジャンジャック・マチャドのアカデミーがある。
アブダビでの活躍や、VTJのフランク・トリッグ戦など、
ちょっとした格闘技ファンなら
その記憶の片隅に留めているであろう、ジャンジャック。
初来日は、1995年9月26日、プロ修斗・駒沢オリンピック公園体育館大会で
行われた中井祐樹との柔術マッチだった。
グレイシー一族とともに育ったマチャド5兄弟。
三男ヒーガンは、ヒクソンに次ぐ柔術界の強豪、
四男ジャンジャックはブラジリアン柔術ナショナル大会で10連覇している――、
などなど、ブラジリアン柔術が何なのか、ほとんど知られていない時代に、
マチャド兄弟は、もう一つの柔術界の巨魁として存在するように伝わっていた。
VTJ95の死闘(なんていう表現で済ませちゃいけない試合だけど)から、4カ月が過ぎ、
ヒクソンも認めた中井が、柔道衣を着て、
柔術ルールという試合のもと、ジャンジャックと戦った。
正直、わけが分からない攻防が続く中、三角絞めのような形になり、中井がタップした。
確か、この直前、レフェリーは右手を高々とピストルの形にして掲げ、
「キャッチ!!」と宣言していたように記憶している。
「ナカイは青帯」。
ジアンと呼ばれた、ジャンジャックが試合後に言い放った一言は、
日本の格闘技界の現実をシビアに表していた。
「嘘は言えない。あの試合で、(柔道の)黒帯を巻いて出てきたナカイは
三角絞めを持ち上げようとした。
今の彼じゃ、まず行わない対処法だろう?
もう15年も前の話だよ。
ナカイの努力で、日本に柔術が根付いた。凄く嬉しいことさ」
94年8月、世界放浪中に訪ねたレドンド・ビーチのアカデミーで、
ヒーガン、ジャンジャック、五男ジョンが、
バーリトゥードでない柔術のイロハを説いてくれた。
自分にとって、パウンドのない柔術との最初の出会いだった。
以来――、
「マナブ、柔術は技術じゃない。
柔術は、体を動かすことだよ」
「腕十字は背中を伸ばすんじゃない。
ヒップを伸ばすんだ。
肩や胸を張る必要はないからね」
「柔術は趣味なんだ。好きだからアカデミーに来るだけさ」
しびれるような、そして嘘のない言葉の数々。
ひょこっとやってくる記者に対して、真摯な姿勢を持ち続けてくるジャンジャック。
植松直哉、中山巧、礒野元の出稽古を拝見させてもらったことがある。
まるで包み込むような、柔術だった。
05年4月、エディ・ブラボーとの対談は
LA在住の堀内勇さんと初めて一緒にさせてもらった柔術の取材だ。
翌年、前述した植松とタクミが行った出稽古、
LA在住我らが恩人Kさん、ジャンジャックの紫帯の彼のおかげで実現した練習参加だ。
その2カ月後、こともあろうか、
KさんのブッキングでLA SUB Xというプロ・グラップリング大会に参加した
弘中邦佳が、ジャンジャックと対戦して、勝ってしまった。
ジャンジャックの好意で、練習に参加させてもらった植松も、その大会に出場していた。
彼らの練習を取材させてもらい、満面の笑みを浮かべる弘中を撮影する自分も、
実のところその勝利は嬉しかったけど、内心、ちょっと複雑な心境ではあった。
ジャンジャック夫人ジャクリーンの自分らを見る目が怖い。
目を合わすことができなかった。
何年もジャンジャックに柔術の手ほどきを受けていたKさんの心情といったら、
自分らが想像できるもんじゃない。
敗戦後、厳しい表情で会場を後にしようとしたジャンジャックと、Kさんの目が合った。
駆け寄って、両手でジャンジャックの手を握り、頭を深々と下げるKさん。
思わず、「Kは何もジャンジャックを負かそうと、弘中のブックをしたわけじゃないし、
自分たちをアカデミーに連れて行ってくれたのも、純粋に僕らがジャンジャックのところに行きたいと所望しただけで、今日の試合のこととか、本当に何にも関係なかったんです」なんて、お節介な言葉が口をついて出てしまった。
「何を言ってるんだ。Kとは何年も肌を合わせてきた。マイ・ファミリーだ。
そんなこと気にもしていない。いつでもアカデミーに来てくれ」
ジャンジャックの言葉に、さらに頭の位置が下がるKさん。
熱い滴が、体育館の床を少しだけにじませる。
ジャンジャックは、柔術同様、人を包み込むことができる懐の大きさを持っている。
昨日、2年振りにジャンジャックのアカデミーを訪ねた。
F&LのMMA最前線という企画で、
先日のM-1日本大会で行われたジヴァニウド・サンタナの腕十字を解説してもらうためだ。
アームバー・キングと呼ばれるジヴァ、
柔術でもコパドムンドやパンナムを制している彼を見て
「このキッドはどこで柔術を習った? ロータス? サンパウロか」とジャンジャック。
うん、グレートだ。でも、もう少し早く極めるチャンスもあったね――と言葉が続いた。
「ナカイと戦って15年――」
「今、日本には何人の黒帯がいる?」
「世界大会で表彰台に狙える選手はどれくらいいるんだ?」
「世界王者は、何人生まれた?」
日本に何人の黒帯柔術家がいるのか、自分は分からない。
ムンジアルで優勝したのは、、、
すぐに思い出されるのは05年茶帯ペナ級の佐々幸範、その何年か前の佐藤愛香ちゃん。
世界大会で表彰台を狙える選手は、これも分からないけど、
来週の木曜日(6月4日)から、ここロスで始まるムンジアル。
ジャンジャックがらみでいえば、
今はジョン・マチャドのアカデミーで調整を積む礒野が出場する
茶帯メジオ級には、カリーニョスの息子カイロン・グレイシーがエントリーしている。
タクミと植松が出る黒帯ペナ級には、佐々、関口和正、柿澤剛之も出場する。
黒帯ペナ級ではムンジアル3連覇中、フーベン“コブリンヤ”シャーレス・が
ホイラーも成し遂げていない世界4連覇を目指す。
そのコブリンヤに4年振りに土をつけたハファエル・メンデス。
ADCCブラジル予選でコブリンヤに勝っているブルーノ・ブラザト。
マリオ・ヘイス、カーロス・リモの世界王者経験者。
グラップリングで今もトップとして活躍するバレット・ヨシダが、
ギで久方ぶりにマスターでなく、アダルトに出てくる。
戦極フェザー級GPに出場したクリス・マニュエル、
そして名前を挙げた彼らよりも、強い可能性のある無名の参加選手がいるに違いない。
柔術界の神階級といっても過言でないのが、ペナ級だ。
杉江アマゾン大輔、中山徹が挑む、レーヴィ級にはマイケル・ランギがいる。
ルーカス・レプリ、ジルベウト・アレッシャンドリ・ブルンもいる。
個人的にはマルセリーニョ・ガウッシアが復活するメジオ級は
ペナ級と並ぶ要注目階級だ。
クロン・グレイシー、セルジオ・モライー、
浜松ボンサイ柔術からマルコ・デ・ソウザ、
アラン・フィフォ、ルーカス・レイチ、アウグスト・ヴィエイラ、マイク・ファウラー、
こんな連中が出場するメジオ級に日本から挑む時任琢磨、遠山拓則は、
確実に世界に触れることができるに違いない。
あれから15年――、
中井祐樹とジャンジャックが、蒔いた日本柔術の種は
芽が出て、茎が伸び、葉をつけた。
今、花を咲かせようとしている。
当時より、体重が7~8kgは増えた自分と違い、
今も変わりないグッドシェイプのジャンジャックは、アカデミーから出るときに
ムンジアルに出場する弟子たちを見て、こう言った。
「私がグッドシェイプなのは、今も強くなり続けるためだ。
そして、衰える前の私を一番最初に極める弟子は誰になるのか。
楽しみでしょうがない。
またまだ、彼らに極めさせるわけにはいかない。だから、グッドシェイプでいないと」
日本ブラジリアン柔術界の父、ジャンジャック・マチャド、
会うたびに、その尊敬の度合いが強くなってしまう。
<記事提供=格闘技WEBマガジンGBR>
http://www.fnlweb.com/mtv33/mt-tb.cgi/4236