キンボ登場時、まさに炎上状態のプルデンシャル・アリーナ。
寝ころべなくても、眠ることができる――。
1時間に満たないフライト、1+2という横3列のプロペラ機でも。
EXCからWECを取材し、2日間横にならないまま、帰国の途へ。
飛行時間は離着陸を除けば、実質20分という短いフライト。
離陸前にしっかり眠りについた。
どれくらい眠ったのか。
窓の外に目をやると、「ん? まだサクラメントだ」。
時間を確認すれば午前9時30前。「飛行機に乗ってから90分は経ってるぞ?」。
到着地サンフランシスコがラッシュ状態で、25分ほど出発が遅れるというアナウンスを耳にしながら、眠りについたはず。
だったら、もうサンフランシスコに着いていてもいいはず。
しかも、自分が乗った飛行機は滑走路からゲートへ戻っている。
ゲートにつくと、隣に座っていた非常に体躯のいい人がカバンを持って降りて行った。
なんでも、この太っちょおじさんが、「出発がこれ以上遅れるなら、
預けた荷物のなかにある心臓の薬を飲まないと体が危ない」とか言っていたらしい。
なるほど、太っちょおじさんのために救急車両まで、機体に横づけだ。
昨夜の激闘で、左目を大きく腫らしている前田吉朗選手、セコンドの稲垣さんは
事情が呑み込めていなくて、首を左右に振っている。
全然、戻ってこない太っちょおじさん。飛行機も動かないまま、さらに30分が過ぎた。
まぁ、薬を飲まなきゃ死んじゃうなんて言われれば、誰も文句を言えないけど、
誰もがイライラしているのが、分かる。
本来、気が短くて、すぐに気持ちが顔に出る自分だが、
旅行中のトラブルにだけは、やや寛容だ。
自分の努力で何ともならないなら、もう開き直るしかない。
で、自分がその時、考えていたことは――、
これが昨日なら、WECが見られなかったな(試合開始3時で、サクラメント到着が1時15分だった)ということと、
薬がなければ、本当に即、天上の理想郷へ向かってしまうのか?
それとも、ジリジリと死へ向かうか?
なんて不謹慎なことだった。
なかなか動かない機内で、自分の思考は前日と前々日のMMAイベントに向かっていった。
EXCの会場で、自分は本当に気が重くなった。
キンボのプロテクトファイトや、
「私はMMAというスポーツが大好きなの」なんて言いながら、4・5ポンドもオーバーで、平気で試合に出てしまうジーナ・カラノ。
そのカラーノに平気で試合をさせてしまう、ゲーリー・ショー。
話題性十分のキンボだが、ファイターとして馬脚を表したといってもいい試合内容だった。
これまでの鋭さが見られなかったジーナだが、この美貌はやはり放っておけない?
ショーが、長い長い記者経験の冒頭で言っていた
「エイビスにはハーツ、コカコーラにはペプシ。なんでもライバルが必要だ。
UFCもそうだ。UFCにEXC――。NASCARに例えると、我々はラップダウンされていたかもしれないが、この大会を終え、ダナ・ホワイトのバックミラーにはゲーリー・ショーの笑顔が映っているはずだ」というセリフ。
こっちの太っちょおじさんの言う通り、CBSの視聴率が予想以上に良かったこともあり、
MMAルールを使った試合が行われるイベントとしては、
バックミラーどころから、EXCはUFCの横に並んだかもしれない。
EXC中継は、午後9時から視聴率が右肩上がりに上昇し、
11時半から11時51分では、18歳から34歳男性の間の視聴率は4.1パーセント。
全体では、全米で651万人が見た計算になるそうだ。
病院へ行くまえに、耳から血を流しながら会見に出席したトンプソン。
でもなぁ、、、、
あれがMMAだと、米国の男性諸氏が思うようになるのも困る。
全く寝技ができなくて、変てこなタイミングでブレイクが入ったかと思えば、
唐突なフィニッシュ。
そんな喧嘩自慢のファイターがメインで、その次に注目された女子選手は、
体重オーバー+体格の優位性を生かして、試合を有利に進めていく。
気が滅入る一番の原因は、
プルデンシャル・アリーナを訪れた人々が、
キンボ・コールやジーナ・コール以上に、セミのEXC世界ミドル級選手権試合
ロビー・ローラー×スコット・スミス戦の試合終了時に
ブーイングをし続けたことだ。
ロビー・ローラーとスコット・スミスの一戦は、本物のMMAだったと思うのだが……
拳が目に入り、試合続行不可能とドクターが判断。
その裁定が気に入らない大ブーイング。
この大会をTVで見てMMAがこういうものと思わることを恐れていたが、
ホテルの部屋で作業中に、
「大体、あのアリーナにいた観客は、スポーツなんて求めていなかったのかも」なんて思った瞬間、心底ゾッとした。
UFCブームで火がついたMMA人気。
TUFというリアリティTVショーは、バラエティのようなものかもしれないが、
あのなかでズッファは、MMAに必要な知識、
そして人間が戦うスポーツであるということを説いてきたはず。
PPVやスパイクTVで、月1以上の大会を開催し、
解説のジョ―・ローガンは、しっかりと技術的、かつ人間的なドラマを解説してきた。WEC中継の解説者フランク・ミアーだって、そうだ。
目立つことが大好きなフランク・トリッグ、バス・ルッテン、
この二人もPRIDEやIFLの解説で、MMAが何たるかをずっと言葉にしてきた。
バスはキンボの面倒を見ているように、EXCとビジネスをしている。
同様に、KJ・ヌーン、ニック・ディアズ、イーブス・エドワース、ジェイク・シールズ、
彼らに続くSHOXCで活躍するファイターたちにとって、
UFCだけでない場は、絶対的に必要だろう。
ショーおじさんのいうように、業界の発展のためにもライバルの存在は不可欠だ。
ただ、本当にキンボやジーナで注目を集め、
本物のMMAファイターたちの価値を上げることが可能なのか?
「アンドレ・オルロフスキーとやれば、1分もたないな」
「いや、ポール・ブエンテーロにも勝てないだろう」
そういう風に言われているMMAキャリア4戦のファイターが、
自分よりずっと多くのファイトマネーを手にしていれば、
誰だって面白くなく、その矛先はキンボではなく、
契約しているプロモーターに向かうはずだ。
CBS中継を軸に考えると、必要なのは本物ファイターの価値でなく、
『注目』自体ではないのかと勘ぐってしまう。
ここのさじ加減を間違えた、MMAワールドを自分たちは既に知っているはずだ。
週刊誌の爆弾により、PRIDEは消滅したが、
あれがなくても、潮を引くように日本の総合人気は落ちていったと自分は思っている。
2005年8月、ヒョードル×ミルコを見た人々は、
いつだって、あのレベル、あの緊張感を求めるようになっていたはずだ。
安易なKO勝ち、一本勝ちより、
あの素晴らしい判定決着を目にした日本の総合格闘技ファンの目は、一段上がった。
現にあの試合後、彼らがズールや(あの当時の)ジョシュを相手にした試合では、
夏の日の一戦のように、体の芯から試合に魅せられることはなかった。
本物同士の対戦で、注目を集めると、
その後は常に本物同士で注目を集める必要がでてくる。
いくら、芸能人や元五輪スポーツ出身の総合素人で、
『注目』の維持を図っても、
ヒョードル×ミルコを見た人の気持ちは離れていったに違いない。
UFCにはレスナーがいて、コールマン戦が目論まれていた。
が、GSP×ジョン・フィッチがある。
ロジャー・フエルタとケニー・フロリアンが戦う。
今週末のロンドンでは、ヒューズとチアゴ・アウベス。
10日前のメインはBJとシャークだ。
キンボとジーナで、
KJ×イーブス、ジェイク×ドリュー・フィケットの需用を高めることができるのか?
あるいはその努力をEXCはしたと言えるのか。
キンボとジーナという特効薬は、どこに効きいたのか?
こっちの太っちょおじさんも、
何かあれば、MMAというエアークラフトに乗り込んだファイターたち、
プロモーション関係者の迷惑を顧みず、一人、
飛行機を降りてしまうのかもしれない。
そんな疑念が、頭から離れない。
MMAの未来を感じさせない、予想以上の高視聴率。
「昨日の試合より、今日の試合がCBSで中継されれば良かったのに」
ARCOアリーナの会見場のそこいらで、聞かれた立ち話――だ。
もちろん、それはMMAメディアの声であって、
WECの会場ではこれまであまり見ることがなかった一般誌の記者の意見ではない。
12000人以上の観客が集まったWECサクラメント大会。
MMAメディアの声は理想論だと分かっているが、理想を追求したくなる
材料も、北米では揃いつつある。
ジェンス・パルバーを破ったユライア・フェイバーにはカリスマ性がついてきた。
ミゲール・トーレスと前田の一戦は、個人的にエディ・アルバレス×ヨアキム・ハンセンに並ぶ2008年上半期MMAベストバウト。
VERSUSでネイションワイド・ライブ中継を行ったWECの視聴率は、1・4パーセントで視聴者数は1,535,705人。
150万以上のビューワー数は、WEC最大のものだったそうだ。
VERSUSのケーブルを通しての契約世帯数は、730万。
つまりこのチャンネルを視聴できる人の5分の1強がフェイバー×パルバー、
トーレス×前田の試合を見たことになる。
これが前夜の影響なのか、1週間ずっと今大会を煽り続けたVEARSUSの努力のたまものなのか。それともズッファ、第二次5カ年計画のレール上の出来事なのか。
EXCとWECのイベントの違いは、プレリミナリーの充実度でも明らかだった。
フェザー級とバンタム級の選手の試合で150万人に視聴、試合後にはカメラと記者に囲まれる。
WECサクラメント大会にもキンボのような非・熟練ファイターがいたことは否定しない。
サクラメント在住のフィリピン系ファイター=マーク・ムニョス。
地元の観客を集める存在で、キンボ同様4戦目のファイターだ。
キンボとの違いは、しっかり中堅規模の大会でキャリアを重ねてこの日を迎えていたこと。
決してメインイベンターで、巨額の富を稼ぎ、団体の顔になっているわけではない。
米国人の大好きなNFL中継、グラウンド上にフットボールの非・熟練者はいないはず。
なのに、なぜMMAだと、いやEXCはそういう手に出たのか。
日付変更線の向こう側の総合格闘技界のやってきたことが、
少なからず影響していると思うのは、考え過ぎだろうか。
今、日本ではDREAMや戦極が、国内の総合を盛り上げるべき努力し続けている。
(ある意味、続けてくれている――と自分は表現すべきかと思っている)
PRIDEがある間に、やってこなかったこと。
PRIDEがある間の底辺の拡大と、中堅プロモーションの整備。
この穴を、今、日本の総合格闘技界は埋めている作業の真っただ中だ。
北米のMMAワールドは、EXCがある間に、しっかりと整備できるのか。
ズッファの舵取りは不変で、業界の普遍的な有りようとなるのか。
5月24日のUFC84以下、
31日のEXC、6月1日のWECを経て、
UFCロンドン大会、シカゴのアドレナリンMMA、EXCハワイ大会、
TUF 7フィナーレ、ストライクフォース、UFC85、
ケージレイジ、7月19日のアフリクション旗揚げ戦まで、
メジャー級MMAのイベントは毎週末続く。
この間もMMAワールドのちょっとした動向を、機敏に嗅ぎ分ける必要がある。
シスコ到着が大幅に遅れ、成田便に乗りそこなっても
2時間後には別の便で東京に戻れる――、
MMAワールドはそんな風にはまだ整備されていない。
一度の乗り遅れが、取り返しのつかない事態を招くことになるかもしれないのだから。
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