「拳の大きさを競い合っているわけじゃない。どちらがスマートかを争っているんだ」
ランディ・クートゥアーの締めの言葉の一節。
米国のナショナル・ジオグラフィック・チャンネルで放送された
「ファイト・サイエンス」という60分番組でのこと。
NATIONAL GEOGRAPHIC CHANNELは、日本版をスカパーで視ることができる。
この日本版は視たことはないが、
米国滞在中やヨーロッパで視た英語の中継は、
自然や科学を探究するのに、ちょっとシャレている。
視て楽しい、教育テレビって感じだ。
もっとも、自分は歴史モノや秘境探検のような番組しか見ることがなかったけど――。
120年の歴史を持つ(受け売り)というナショナル・ジオグラフィック協会の
会報誌から世界中で読まれるようになったナショナル・ジオグラフィック誌の
TVバージョン。
NATIONAL GEOGRAPHICは、自分も、
そのグラフィックの美しさと興味深い題材に魅力を感じ、
数年間購読していたことがあるが、
読み手に興味を持たせることができる日本語訳が少ないことにストレスを覚え、
年間購読をやめてしまった過去がある。
(現在はどのような日本語でリポートされているか知らないので、参考にしないで下さい)
そのNGCで、MMAが特集された。
番組には前述したランディ・クートゥアー以外にも、
ティト・オーティズ、バス・ルッテン、ディーン・リスターが出演。
パンチ、キック、エルボー、パウンド、スリーパーやスラムの威力が測定されていった。
なんて書けば、日本でもよく格闘家やボクサー、相撲取りなんかが
ゲームセンターにあるゲームでパンチ力を測る番組を想像されるかもしれないが、
とんでもない。
FIGHT SCIENCEでは、15万ドル(約1620万円!!!!!)
を掛けて造ったダミー人形で彼らのパワーを探り、
モーションキャプチャーをつけて撮影された彼らの動きは、
CGで体の内部でどのような作用が起こっているのかを分析。
スーパースローモーションで、インパクトの瞬間を映し出すなど、
とにかく視覚に訴える創りになっていた。
このダミー人形を使って、
以前にカンフー、ムエタイ、テコンドーなどの計測も行われており、
ちなみに首相撲でとらえた状態でのムエタイのヒザ蹴りは
時速35マイルで運転している車のクラッシュに相当するというデータがあったらしい。
ルッテンのストレートは、427kg。
つま先から膝、腰、肩から拳にひねりを加えた動作が必要で、要はパワーでなく
正しい体の使い方が必要だとのこと。
驚くべきはクートゥアーのパウンド、その一発の重さは907kg、1tに近く、
ボクシングのパンチのデータと比較して、2倍の重さを計測したという。
ボクシングよりもMMAの場合は、パンチでの攻撃範囲が30?長くなり、
その射程距離が90?という見解があった一方で、
ルッテンの左フックや、ティトのエルボーなど、ショートレンジからのテンプルへの打撃
にスポットを当てていたことも印象深い。
ショートレンジからの打撃攻撃の重さは130kg程度だが、脳が左右に揺れ、
さらに連打が多いことから、ストレートで顎を打ち抜くパワー溢れる
パンチ(脳みそは前後に揺れる)よりも、
倒された場合の危険性が高いことも指摘されていた。
番組ではMMA特有の攻撃としてテイクダウンやスラム、
そして多くのファイトが寝技に移行するということで、サブミッションや絞めにも重点が
置かれ、解析されていた。
何よりも驚かされたのが、
ツータイムス・ワールド・サブミッション・グラップリング王者という肩書のリスターが
スリーパーを実際に仕掛けて、落ちる直前=パッシングアウト前のブラックアウトという
状態になるまで絞め続け、そのバイオメカニズムをCGで解析したシーンだ。
またレッグロックはヒザという稼働範囲の狭い関節に付加を掛け、
アームロックのように稼働範囲の広い肩に攻撃する場合とは違う
ロジックが存在することなど、実演された。
そう、そしてこれらのフィニッシュに至る技術は、
ブラジリアン柔術のテクニックだという説明もあり、
グレイシーアクションからの映像、ヒクソンの実演の映像もあった。
もちろん、止まっているダミー人形に完全に狙いを定め、フルパワーで
完璧なタイミングで打撃をヒットできたり、無抵抗で関節技が仕掛けられるなんて、
実際の試合に起こるべくことじゃないかもしれない。
計測された数字は、あくまでも番組内のアクセントに過ぎない。
番組では必ず、ひとつの計測後に「なぜ?」この動きが可能か?
「どうして?」ファイターは、こんなパワーを有し、かつ無事に試合をこなせるのか――
という疑問の答が用意されていた。
いわく、体の作りが常人では考えられない(当然だけど)とのこと。
その常人で考えられない部分は、日頃のたゆまぬ努力と節制で可能になっているなど、
とにかく肯定的にMMAを捉えていた。
番組の冒頭では
UFCは世界でもっともポピュラーなファイティング・スポーツで、
8角形のケージはリングに変わり、ファイトシーンの中心となっているという説明があり、
また番組の途中でも、
安全なルール、ボクシングよりずっと負傷者は少ないなどと述べられていた。
と同時に、MMAの勝敗の決し方は三通り。
打撃によるKO・TKO、関節技や絞め技によるタップアウト、そしてジャッジの裁定と、
基礎中の基礎というべき説明もなされている。
つまり、MMAなんて知らない人たち、MMAファイターの知識がない人たちに
MMAとは「何ぞや」―という部分を説明するために、トップファイターを用いて、
肉体にかかる付加、勝負に必要なテクニックを説明しているわけだ。
番組の合間には、ルッテンやクートゥアー、ティトらの人間性が伝わる
ちょっとしたアドリブや、インタビューもちりばめられている。
自分ら日本の格闘技マスコミの間では、
総合格闘技という言葉を誌面でこれだけの長きに渡って、使ってきて、
なお「テクニックはやる側の興味の対象」という見方が横行している。
テクニックはコア層のものという判断が、多くを占めている。
このNGCで説明されたメカニズムや必要なテクニック論、
勝利の方程式は、
実際の数値や分かりやすいCGなど用いていなかったが、
ジ・アルティメット・ファイターのなかで、口汚い放送禁止用語や
ファイターのばか騒ぎと並行して、すでに説明されてきた事柄も多い。
きっと、日本中のジムでも、数値やCGがなくても
「なぜ?」、「どうして?」が繰り返し行われているに違いない。
では専門誌の編集部でこの「なぜ?」、「どうして?」がどれだけ行われてきたのか?
一本勝ちが◎、膠着はNG。
そういう考えがずっと続くのはしょうがないとして、
なぜ一本が起こるのか、どうして膠着するのか、そういう議論は、
実力差のあるマッチメイク、実力が拮抗しているからという結論で終わらせてきた。
果たして、本当にそうだろうか?
実力差があるなら、力で劣っているファイターは膠着を目指すこともあるし、
力が拮抗し、高いレベルの試合でも、素晴らしい技の交換は行われる。
アグレッシブなら良い試合になる。
概ね、そうだろう。
では、なぜアグレッシブにならないのか?
精神的な問題で、片付け過ぎていないだろうか。
そこには、スタミナはおろか、技術的な問題が多いに含まれているに違いない。
自らを振り返っても、
「作戦」――という言葉で済ませるケースが多すぎるのでは……と反省しきりだ。
その作戦の裏付けには、体調、相手の出方、自分の得意分野、
やはり技術に起因するケースは大いにあるだろう。
例えば、DREAMで決定したカード、
ブスカペ×宮田、ハンセン×朴、川尻×マンバの3試合。
エキサイティングな試合になる可能性は、左へ行くほど少ないかもしれない。
それは、実力差がないからなのか?
スタイルなのか?
はたまた作戦なのか?
打撃系×グラップラーなら、面白い試合になるのか?
なら、なぜ川尻×マンバの方が、ハンセン×朴より面白い試合になると思われるのか?
ブスカペ×宮田は、グラップラー同士だから地味な一戦になるのか?
今も自分のなかでのMMAベストバウトのトップにあるディエゴ×パリジャン戦、
二人ともグラップラーだ。
技術が全てだとは、自分も決して思っていない。
人間性の上に、技術が積み上がっていると理解している。
だからといって、人間性に頼った報道の仕方は、
どこかでボタンの掛け違いがあったとしか思えない。
「技術論は、面白くない」。
それは、面白くないページしか作れなかった自分たちに問題がある。
技術がなくても、エキサイティングな試合はあるだろう。
ただし、技術がない者同士の試合を、格闘技として大きく扱うのは間違っている。
格闘技のメインストリームを歩くファイターたちは、
常人よりも優れている。
その優れている肉体、技術、精神を同等に伝えていくべきでは?
それが優れたファイターたちの試合をより興味深いものしていく。
結局のところ、教育テレビでも、バラエティ・ショーでも、伝え方は違っても
伝えるべき情報、その対象は同じかもしれない。
専門誌は、15年以上もファイターをゲームセンターに連れて行って、
パンチを計測し続けてきた――なんて、ゾッとする話だ。
シンプルに「なんでもOK」な姿勢で業界を盛り上げる姿勢も必要だが、
同様にファイターを本当の意味で、尊敬、尊重する姿勢があって初めて、
NGCの番組内でティトが言っていたような
「MMAファイターは、フルタイムでトレーニングしなければ」という
世界が現実のものとなる第一歩になるのではないだろうか。
http://www.fnlweb.com/mtv33/mt-tb.cgi/2253