【コラム】UFC74で印象に残った試合

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文=高島学
text & photograph by Manabu Takashima


名勝負でも、好勝負でもないかもしれない。
ただ心に残る試合が、ある。
気持ちにひっかかる、とでも言うんだろうか?

記者としてではなく、
格闘技好きとして琴線にひっかかる試合。


それは名勝負や好勝負でもないから、
他の人が見ても、なんとも思わない試合かもしれないし、
ともすれば「見てられない」という印象を持たれるような試合の場合もあるだろう。


ただ、個人的にずっと忘れられない試合になる。


名勝負や好勝負より、
そんな試合の方が遥かに少ない。
今年に入って、こういう印象を持ったのは、
DVDを送ってもらって観た、6月のWEC。
ハニ・ヤヒーラ×マーク・ホーミニック戦ぐらいだった。


無骨なまでに真正面からのタックル、
いつホーミニックのヒザ蹴りを食らうやもしれないのに
ハニは、まっすぐタックルを狙い続ける。


これがホイスの時代なら、最初のタックルで寝技に持ち込むことができただろう。
でも、今は2007年。
簡単に柔術家のタックルで、倒れるMMAファイターという名の立ち技格闘家は少ない。
2005年の12月に日本で初めて試合をしたときですら、
ハニは中原太陽からテイクダウンを奪うのに苦労していた。


あれから1年半――、ハニはそれでも真正面からタックル。
何度も何度もタックル。


ホーミニックは、ハニのタックルを切りまくった。
ホーミニックは、完全にヒザのタイミングを掴んでいた。


それでも、ハニは必死になって片足にしがみつくと、
ホーミニックは体を捻り、背中を向けて、
しがみついてきた両腕から足を引き抜こうとする(ヌルヌルでなくても、あの逃げ方は有効。この逃げ方を見て、全員が全員ヌルヌル疑惑の対象になるようなことだけにはなってほしくない)。


その刹那、ハニは背中に飛び乗り、バックを制して、チョークを極めた。


素晴らしい――の一言。
今のMMA勝利の方程式からはかけ離れたハニのスタイル。
いくら柔術家だからといって、
もう少し、工夫はできないかと思う反面、
なんだか微笑んでしまうハニの勝利。


「めちゃくちゃ、嬉しそうにしてましたよね」
8月26日、ラスベガス弾丸ツアーからLAへ戻った時、
恩人Kさんが、こう言った。


UFC74、
全米のMMAファンが注目するロジャー・フエルタに
捧げられた悲しき生贄。
アルバート・クレーン。


彼の試合をオクタゴンサイドで撮影していた自分の顔が、
何度かPPVの画面に映りこみ、
(そんなところをチェックするのが大好きKさんは)
異様に笑顔を浮かべる自分の顔を確認したそうだ。


実際、「Wonderful」なんて叫びながら、
シャッターを押していた。


超満員の観客で膨れ上がった
マンダレイベイ・イベンツセンターの観客席では、
ひょっとして、自分と同じような歓声を挙げたファンが
いたかもしれない。


ただ、それはきっと
ロジャー・フエルタに向けられた声援だ。


スーパーアグレッシブ、
休むことを知らないフエルタは、スタンドのパンチで
クレーンを圧倒。
タックルを潰してトップを奪うと、
強烈なパウンドを顔面に落としていく。


打撃戦は全く×な、クレーン。
前蹴りでバランスを崩し、終盤にはミドルをガードしながら勢いに押され、キャンバスに崩れ落ちた。


打撃で距離を詰めることができないから、
かなり離れた位置から、体が伸びきってしまう、
いわゆる――蛙の腹ばい――状態のタックルを仕掛ける。
必死でフエルタの足首を掴むが、必ずといっていいほど
パウンドを喰らう。


必死の形相でバックを取ったものの、
フエルタは場内のスクリーンに目をやって、
振り返ることなく、ヒジをクレーンの頭部に叩き込んだ。
まぁ、観客受けする――、今のUFCの勢いに通じる
ファイターだ、ロジャー・フエルタは。


自分が撮影中でありながら、
思わずほくそ笑んでしまったり、
GONKAKUのカメラマンであるデイブ・マンデルや、
格通の福田さんに話しかけてしまったのは、
そんなフエルタの猛攻に対してではない、
殴られまくっているアルバート・クレーンに、
目を奪われてしまったからだ。



「僕はクレージーだからね」。
もう3年以上も前になるが、ZSTに来日した
クレーンと話をしたことがあった。
柔術を学ぶためだけに、ブラジルで3年を過ごした。
ムンジアルには97年から出場していて、
青帯レーヴィ級で3位。
99年には紫帯メジオ級で準優勝。
米国に戻ったあとも02年までムンジアルに出場し続け、
最後の年には黒帯レーヴィ級3位という戦績を残している。


どこからどう見ても立派すぎる戦績だが、
ちょっと、結果を残す時代が早かったかもしれない。


クレーンの偉業は、
その後の彼の評価に直結しているとは言いがたい。


「ボクシングもレスリングも経験あるけど、
遊びのようなもの。真剣にやったのは柔術だけ」
3年前に聞いた言葉が今も実践されているのかもしれない。


体が伸びきったタックル、
すぐにヒザをついて結局は引き込む。
到底、現在のMMA・勝利の方程式には符合していない。
観客席からは失笑がもれる。


それでもクレーンは、パンチを顔面に受け続けながら、
彼らしく攻め続けていた。


パンチを打ち合わないと、弱いのか?
自分の得意分野を伸ばすことだけを考えている
MMAファイターは、ダメなのか?


弱いし、ダメなんだろう。
UFCブームにあるMMAでは。


ただ、
クレーンは、フエルタから何度となくポジションを奪い、
関節技を仕掛けていった。

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スイープが3度、見られた。
マウント返しや、テッポウじゃない。
オモプラッタ――なら、まだ他の選手も使う。


両足でフエルタの左腕を挟み、左腕でその左手首を掴む。
右手は、正座した状態のフエルタの左腿をすくおうとする。
もちろん、顔面はがら空きだ。
そしてフエルタの右の拳は自由。
顔面を殴られる。
クレーンは顔面を殴られながらも、ゆっくり後方回転。


ホレッタ。


「Jesus」、完全、英語モードの馬鹿ライターは、
大声で叫んでしまった。


チョークの体勢にも、腕十字の体勢にも入った。
最後は――、
バックマウントから殴られまくり、TKO負けを喫した。


スタンドで殴り合えないから負けたのか?
タックルが下手くそだから、負けたのか?


判定までいけば、そうだろう。
だが、この夜、クレーンが負けたのはフィジカルの差だと
自分は思う。


長年、在籍したサンタフェ柔術を離れ、
奥方の生まれ故郷、ロサンゼルス、
アルメニア人社会にその身を置くようになったと耳にした。


正直、どれだけ練習できているのだろうか?
そんな体つきだった、アルバート・クレーン。


きっと、色々な事情があるだろうと予想できる肉体だった。


だからこそ、フィジカル面を強化できれば――と思う。
クレーンの技術をもってすれば、最初のチャンスで
一本勝ちできる。
フエルタが勝ったのは、結果的にはパウンドだが、
ホントの勝因は、体力面でクレーンを凌駕していたから。


フエルタは合計3度、クレーンにひっくり返された。
3度とも、攻勢中に反撃を許していたのだ。
万全のコンディションだったフエルタは――。


殴られなくても、テイクダウンができなくても、
勝てる。
長年培ってきた技術で、勝てる。
正直、最近のUFC、MMAで、
そんな思いを抱かせてくれた選手はいなかった。
グッと来たのは、その部分だったんだと思う。


もちろん、クレーンが今のスタイルで勝利を掴むには、
ある確定要素をクリアする必要がある。


それは殴られること。



護身術でも、VT用の柔術でもない。
あれは、CBJJ、ムンジアルで勝つ柔術のテクニック。
だから、殴られる。


殴られても、殴られても、もぐる。
殴られることを前提に、自分の信じる技術を使う。
弱々しく見えるのに、
気合が入りまくったクレージーな、アルバート・クレーン。


今時、ちょっと見られない、素敵な試合だった。



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【 2007年09月06日 16:30 】

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