ヘウソン・グレイシーが開催するGFC。
「今では珍しい、寝技の多いMMAだった」
というメールが届いたことから、
色々と考察がはじまっちゃいます――。
文=高島学 text by Manabu Takashima
photo by Keith Mills
キース・ミルスという名のフォトグラファーで、
ライターもやっているアメリカ人(きっと、そう。
ひょっとしたらカナダ人かも)がいる。
彼に最初にあったのは、2000年ぐらいだろうか。
インディアナ州のエバンズビル。
片田舎のMMAプロモーションの撮影にやってきた彼は、
髭面で、巨漢。
画家のようでもあり、海賊をも思わせる風貌の持ち主。
MMAやグラップリングを語り始めると、
もうその口が閉じることは永久にないのではないかと
思われるほどの熱気を持つ。
画家っぽくもあり、海賊っぽいオタク。
僕は、彼の眼力を信じている。
その前に彼の眼力を信じている――自分の眼を信じている。
キースと、ブラジルのマルセーロ・アロンソ(格闘技通信のブラジル通信員)は、
最も信頼できる記者だ。
キースは、UFCへは顔を出さない。
だが、前述のエヴァンズビルの大会=HnSを初めとして、
KOTCやWEC(ズッファに買収される前の)、
AFC、MFC――
今でいうならエリートXCやストライク・フォース、
ボードッグ、IFLの会場に必ずといっていいほど、姿を見せる。
きっと日本にいたなら、PRIDEやHERO'Sには現れなくても、
パンクラスや修斗、DEEPにケージ・フォース、
そしてZSTには必ず顔を出す。
なんて感じの奴だ。
先週の土曜日に、オハイオ州コロンバスで行なわれた
グレイシー・ファイティング・チャンピオンシップス(GFC)の取材を終えた、
彼からメールが届いた。
「今では珍しい、寝技の多いMMAだった」と。
ただ、「惜しむべきは、対戦相手のレベルが低く、
ジャカレイ、フレジソン・パイシャオン、カカレコは一瞬にして
勝利してしまい。その真価を問える内容ではなかった」とも書き記していた。
GFCのプロモーターは、
エリオ・グレイシーの次男ヘウソン・グレイシー。
ヒクソンほど哲学的でなく、
ホリオンのように弁がたつわけでもない。
が、柔術への揺らぎない信頼と多弁さは、
他の2人に勝るとも劣らない。
ビッグマネーを稼ぐことができるようになった代わりに、
時間無制限、ブレイクなし――という、護身という要素が
削ぎ落ちたMMAを経験せずに、
バーリトゥードを闘ってきた世代。
「レスリング、サンボ、修斗、シュートファイティング。
みんな柔術のコピーだ」
コトの真理はおいておくとして、
こんなに力のこもった言葉を吐く人も、珍しい。
そのヘウソンが、リードするMMA大会には、
前述したジャカレイ、パイシャオン以外にも
デミアン・マイア、ダニエル・モライといった
柔術の世界王者がズラリと、マッチメイクに
名を連ねている。
昨年3月に行なわれた同大会では、
彼の息子ハーランも出場(判定負け)。
ダニエル・グレイシーや、シャオリン・ヒベイロも
ラインナップに加わっていた。
寝技の復権を狙ったイベントなのか、
あくまでも柔術と
グレイシー柔術は違うというように、
MMAではなく、アルティメット・ファイトと
一般の人が呼ぶようになった米国の総合のなかで、
「これは、アルティメット・ファイトでなくグレイシー・ファイトだ」と宣言、
一線を画すための大会なのか。
どちらにしても、寝技の復権を本当の意味で達成するには
寝技にすぐ持ち込まれ、成す術なく敗れるファイターでなく、
バリバリの立ち技の使い手、寝技に持ち込まれない、
そして脂の乗り切ったファイターに勝つ必要がある。
言うまでもなく、現在のMMAはスタンド中心だ。
イベントとして成立させるために、
観客が好む、そして分かりやすさを追求すると、
スタンド中心にならざるを得なかった。
それがMMAビジネスの発展に結びついている。
素晴らしいグラウンドワークを誇る選手が、
一度として寝技にいくことなく、試合を終えることもある。
グラップラー同士の対戦で、
目も当てられない稚拙なパンチの打ち合い、
距離の取り合いという試合も何度も見てきた。
打撃というエレメントは進化し、
またプロモーションも打撃を求める。
その打撃戦を可能にするテイクダウンは、
攻防の両面でほんの数年前のMMAとは、別次元にある。
果たして、
それらの闘いは、総合格闘技のルールこそ使用はしているが、
本当に総合格闘技と呼べる闘いなのだろうか。
打・投・極の回転を謳う、修斗でさえ
倒れずに殴る――、
そういう選手がプロのリング上を闊歩している。
(そこにはダメージ重視という、
審判団にとって非常に判断の難しい判定基準があることは明白だ)
先日の後楽園ホール大会で行なわれた
マルコ・ロウロ×大沢ケンジの一戦。
終了後に、元プロシューター九平こと、九ちゃんに
「どう思います?」(判定について)と尋ねられ、
自分が正直に思ったのは――。
もう判定云々でなく、修斗の試合ではあるが、
大沢もロウロもシューターではない。
自分にとっては、修斗の試合ではないということだ。
もちろん、勝つためだし、相手の良さを消すのが格闘技であり、
(いまや使うことも恥ずかしい)真剣勝負だ。
そして、そこで見られた闘いは、
打・投・極の回転を止めるための攻防の連続。
それでも大沢は本気でロウロを倒し(仕留め)にいったし、
ロウロも全力で、
大沢を倒すこと(テイクダウン)を狙っていた。
だから、あの試合のなかには、
修斗のなかにある斗い(たたかい)という要素が、
しっかり刻み込まれていた。
一方で、もう随分と古い試合に感じてしまうが、
UFC69での
ジョシュ・コスチェック×ディエゴ・サンチェス戦は
どうなるだろうか?
ジャブを当て、サンチェスのテイクダウン狙いをかわし続けたコスチェック。
1R終盤に見せた、彼の持ち味である
レスリングの強み=テイクダウンも、
寝技であっけなくリバーサルされると、
残りの2R=10分間で再び仕掛けることはなかった。
拳を顔面にヒットさせ、ポイントを奪うジャブ。
寝技へ移行するためでなく、
寝技へいかないためのレスリングの知識と体力、
そして経験値。
最終3Rには、
「ハイキック。出すだけでいい、当てなくて良い」
と叫ぶセコンドの声を聞くと、何ともいえない気分になってしまった。
だからといって、ディエゴが現代MMAの被害者だなんて、
これっぽっちも思わない。
彼は、グラップリングに結びつけるためのテイクダウンに入る際、
コスチェックのパンチが3連続で顔面に届くだけの時間すら、
その距離に留まることは一度としてなかった。
ブレイクされるのを分かったうえで、引き込む――、
かつてのグラップラーのような開き直りもなかった。
この試合で、僕はUFCのFの部分、
ファイティングを感じることはできなかった。
Zuffa関係者に感想を聞かれ
「TWO MATADORS、NO BULL」
なんて、苦笑いで答えた。
もっと寝技が見たい、寝技の攻防がないと
総合格闘技でない――なんて、思いがないわけでないが
実際、パンチの攻防を避け、
寝技しかできない選手の闘いが
総合格闘技だなんてことも、思っていない。
パンチができ、テイクダウンができ、
防御もできる選手同士が戦いで、寝技の展開が見られる。
いまや、年に何度も見られない試合展開。
一昨年なら、宇野薫×ヨアキム・ハンセン
昨年だったらディエゴ・サンチェス×カロ・パリシャン。
そんな試合になるための、技術の進化だと
95年から思ってきた。
(それ以前の僕は、パウンド否定派だったから論外)。
一度、見てみたい判定方法がある。
1.立ち技打撃ポイント。
2.イクダウン、投げ技のポイント。
3.寝技でのポジション+サブミッション+打撃ポイント。
そして、
4.あらゆる攻防におけるエスケープ+防御ポイント。
この4つの要素を別々に評価するジャッジが、
リングを使用した試合なら一辺に一人ずつ、計16名。
オクタゴンやヘキサゴン、サークル・ケージなら4箇所、
計12名を配置する。
そして、各々が全ラウンド終了後、加点方でもなく、
減点方でもなく、試合全体の印象点で上回った選手を選ぶ。
最後にレフェリーが減点を宣告した場合は、
重・軽度に比例した反則ポイントの数を、
反則を犯した選手の合計数から、省く。
で、印象点合計数が上回った方が勝者。
だから――、
何だ?
何でもない……。
髭面でもなく、巨漢でもない、
そんなオタクが日本人にもいるということで。
こういうことを考え出すと、
締め切りも忘れて、熱中してしまう。
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