【コラム】「ミルコ狂想曲」のリズムに乗りながら、考えよう/高島学

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計量――公開計量でも、ミルコに最も注目が集まっていた





「ミルコ狂想曲」のリズムに乗りながら、考えよう

文&写真=高島学

text & photograph by Manabu Takashima







ミルコ・クロコップのUFC初出場から、
2週間が過ぎようとしている。

かれこれ30回を超えようかというUFC取材で、
今回ほど多くの日本人マスコミを見たのは初めてだった。
さすが、ミルコ効果。
UFCそのものではなく、ミルコを追いかける日本人プレス。
とにかくミルコを掴んでおけばという動きが、
自分の回りでも四六時中見られた。

UFCに出たミルコを押さえ、雑誌を売る。
UFCにミルコが出ることになり、
WOWOWの契約世帯数が増える。

PRIDEに出ていた絶大なネームバリューを誇る選手、
PRIDEを離れて、UFCに出る。
センセーショナルだ。
PRIDEに出ていたときよりも、ある意味ネタになる。
今まで地道に中継してきたUFC、
これで人気があがる――、
WOWOW関係者も期待に胸を膨らませているようだった。

WOWOWは、万々歳かもしれない。
専門誌も新聞もネタになったかもしれない。

なんせ、セキュリティが止めているのを聞かず、
ミルコを追いかけていく人たちが続出したんだ。
良いこと――なのかも、し、れ、な、い……。

が、
果たして、本当にそうか?

これまでPRIDEで、見ることができた選手だ。
去年の上半期の途中まで、
地上波で、無料で観ることができた選手だ。
ミルコは。
それが、初夏にスカパーのPPVでしか見られなくなった。
今度は、会場に足を運んでも、見られなくなる。

ヒタヒタなんてものではない、
物凄い勢いで、
日本の総合格闘技界の基盤が崩れ落ちようとしている。
その顕著な例が、ミルコのUFC出場だとすれば、
これは浮かれてなんかいられない状況だ。

これまでは良かった。
RINGSで観ていた選手が、PRIDEへ移る。
修斗で目にしていた選手が、PRIDE武士道へ行く。
個々のプロモーションのビジネスを抜きにして考えると、
日本国内での移動だ。

これからはミルコだけでなく、
人気選手はみな、太平洋を越えていくかもしれない。
ボードッグファイトを取材した際、
来日経験のある米国人選手の口から
「もう、何時間もフライトし、時差のあるところで
試合をしなくて、良くなったよ」という言葉を聞いた。

UFCではないイベントで――だ。

ミルコがUFCに出た日――。
ランディ・クートゥアーが、自らのジム、
エクストリーム・クートゥアーのジム開きをした。
リングにオクタゴン、巨大なマットスペース。
日本では、まず考えられない大きさと設備。
フォレスト・グリフィンや、マーク・パイルなどの
ジムメンバー以外にも、多くの選手がジムを訪れていた。

以前なら、煩わしいくらい耳にした
「日本で闘いたい。
日本のプロモーションの連絡先を教えてくれ」
という声を一度として、掛けられなかった。

UFCは、これからローラー作戦、絨毯爆撃の要領で
日本の総合格闘技界を制圧してくるだろう。

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ジム――3月3日に現役復帰を果たす、ランディ・クートゥアーのジム。
米国MMA、そしてUFCの勢いをそのまま感じることができる


本音を言うと、別に制圧してもらってもいい。
芸能人が出たり、体重差のある試合が
格闘技として行なわれ、
一般大衆の目に晒されるぐらいなら。
アスレチック・コミッションに相当する組織がない国だが、
ラスベガスやカリフォルニアで行なわれている大会同様、
薬物検査が本当に行われ、安全管理がしっかりするならば。

UFCが日本で、2カ月に一度定期的に興行を行うのなら。

そんなこと、ありえるのだろうか?

確かに年に1度や2度、大会は開かれるかもしれないが、
これまでのように頻繁に、
声を枯らして応援してきた選手の姿を
もう、日本では見ることはできなくなる。

WECを買収したUFCは
次のターゲットを軽量級に当てている。
PRIDEやHERO‘Sですら、手を出さなかった
65?も、彼らのビジネスの範疇だ。
つまりKIDはおろか、
リオン武、日沖発という、
後楽園ホールやZEPP名古屋で見られた選手が、
独占契約のくぐりの下で、
日本では試合をしなくなるかもしれない。

エリートXCや前述のボードッグは、
女子の試合を組んでいる。
スマックのトップ選手たちは、当然のように彼らの視野に
入っているだろう。

3000円、5000円、7000円を支払えば、
ライブで見られた選手たちですら、
もう、観られなくなるかもしれない。

選手の立場でいえば、ファイトマネーが上がる。
大変、素晴らしいことだろう。
必死で汗を流している選手が、ステップアップすることを
否定しては、何も始まらない。

要は、ステップアップした選手の活躍の場が
日本でなくなる――ということが問題なのだ。

国内トップ選手が、海外に流れる。
に留まらず、海外の有名どころが、
日本にやってこなくなる。

選手の流出が続けば、どうなる?
日本の総合格闘技界は、人材育成の場になってしまう。
完全な空洞化だ。
日本全体がマイナーリーグになる、
そんな現実が目前に迫っている。

Jリーグや日本のプロ野球だって、同じじゃないか――、
と言われる方もいるかもしれない。
サッカーなら、我々が長年見てきたのは、
JFLであり、Jリーグだ。
決してセリエA、プレミアシップ、ブンデス・リーガ
リーガ・エスパニョーラではない。

巨人×阪神を見ていた。ロッテ×西武を見てきた。
ヤンキース×レッドソックスじゃない。

日本の総合格闘技ファンは、
何年もの間、世界最高の大会を見てきた。

プレミアシップから、Jリーグというように、
格が下がっても、「サッカーなら見続ける」
と言ってくれるファンが、
たくさんいてくれればいいが、
おそらくは、そんな状況になると、
サッカー自体を見なくなる人が増える可能性が高い。
観る人が減れば、大会も減る。
闘う場が少なくなっていく。そうなると――、
ここまで数が増えた、ジムの経営はどうなっていくのか。

ミルコを必至に追いかけながらでもいい、
頭の隅においておかなければいけない、問題だと思う。


■関連リンク
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