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注目の女子立ち技最強決定戦、神村エリカvsRENA。
戦前の予想は大方が「神村のKO勝ち」。
だが、SB陣営は「RENAが勝つ」と信じていた。
試合前の2か月間でRENAは驚くほどに進化を遂げていたからだ。
その中心はシーザージムの名物トレーナー、ダムさん。
RENAとダムさんとシュートボクシング勢が一致団結して臨んだ神村戦。
その舞台裏で何が起きていたのか──。
文_茂田浩司 タイ語通訳_八木有子 撮影_氷見雄輔(人物)、t.SAKUMA(試合)
11月23日、TDCホールのバックステージに歓喜の輪が広がった。歓声と拍手の中心にいるのは神村に勝利したRENA。シーザー武志会長はRENAを称えながら涙ぐむ。
「一人でこっちに来て、不安だっただろうけどよく頑張った」
RENAの涙も止まらなかった。
「今回はベルトは見てなくて、神村選手に勝ちたい。勝って、皆を笑顔にしたいってずっと思ってました」
二人を見守るのは及川道場の及川兄弟や緒形、宍戸、高橋藍、そしてダムトレーナー。その晴れやかな笑顔を見ながら森谷本部長が呟いた。
「今回はウチにとって絶対に負けられない試合でしたからね」
まさにSBが一丸となり、総力戦で掴み取った勝利であった。
*
この試合に備えてRENAは約2か月に及ぶ長期合宿をシーザージムでおこなった。当初1か月の予定から延長したのには理由がある。
合宿2日目、練習中にRENAは怪我をしてしまったのである。
RENA ヒザの靱帯をやっちゃって歩けなくなってしまったんです(苦笑)。毎日、シーザージムに行って道場の掃除をして、力先生(シーザー力道場代表)の力接骨院で治療をしていただいたら、後はやることがなくて(苦笑)。練習できないなら大阪に帰りたいとも思ったんですけど「練習しに来てるんだ」と思って神村選手のDVDを見て、紙に書いたりして研究して。ずっとやってると「もういいや!」ってなるんですけど「やっぱりやらなきゃ!」って、その繰り返しです(苦笑)。及川先生と電話で話したり、力接骨院にいて先生たちと話してる時だけ少し気持ちが楽になりましたけど。
本格的な練習再開は「シュート・ザ・シュート」(11月5、6日)直前。試合まで3週間を切っていた。
RENAにとってもう一つの問題は、シーザージムのダムトレーナーとの関係であった。
シーザージムはSBの総本部道場。シーザー会長の「皆で練習して一緒に強くなればいい」という考えの下、出稽古に訪れる様々な選手を快く受け入れてきた。RENA自身、第一回ガールズS-cupの際に2週間合宿に来てダムさんの指導を受けている。だが昨年のガールズS-cup の時はダムさんがRENAの出稽古を断った。「高橋藍を優勝させたいから」と。
「今回は『ダムさんの気持ちも分かるけどウチは本部道場でこの試合はSBとしての勝負。受け入れてほしい』と話しました」(森谷本部長)
ダムトレーナー(以下ダム) RENAと藍ちゃんはずっとライバルで、二人は本気で戦ってきた。ジムも違うからはじめは気が進まなかった(苦笑)。でも会長や森谷さんに言われて、私はSBが大好きだし、RENAが前のような素直な心でジムの一員として練習や手伝いを頑張るのならと、SBのために戸惑いを捨てて引き受けました。
それでも当初、RENAとダムさんの間はギクシャクしていた。
RENA 最初はやっぱり壁がありましたね(苦笑)。でも練習しなくちゃいけないので、とにかく毎日ジムに行って出来ることを頑張ってやっているうちにダムさんも少しずつ心を開いてくれたんです(笑)。タイ語はあんまり分からないんですけど教えて貰ったりしながら、コミニュケーションが取れるようになりました。
ダムさんは21歳でトレーナーに転身し指導歴23年。ポープラムックジムで数々の名選手を教えてきた。
ダム 4年前、森谷さんから人を通じてポープラムックジムに「トレーナーを一人紹介して欲しい」という要請があって、でも選手がたくさんいたからプラムック会長は3か月の約束で私を日本に送ったんです。でも私はすっかり日本が気にいってしまった(笑)。シーザージムの皆は家族と同じで、一緒にいると気持ちが明るくなるし安心する。何より会長が選手をよく理解していて、トレーナーに仕事を任せてくれるし立場を尊重してくれるのでタイと同じ気持ちで仕事が出来る。私は会長をもう一人のお父さんだと思っています。
ダムさんのミットは一級品だ。
RENA 本当に上手いですよ。音が鳴らない時がなくて、ミットを合わせながら上手く吸収してくれて、手首が痛いこともないです。ミットがすごく気持ちいいんですよね(笑)。それに気分を乗せてくれるのも上手くて、楽しく、激しく、本当に気持ちよく出来るミットなんです。ダムさんみたいなミットは初めてですね。
ダムさんもRENAの才能にすっかり惚れ込んだ。
ダム RENAはすごく頭がいい。私が教えたことをすぐに理解して、身につけてしまう。目がいい、反応がいい、スピードもある。今回はRISEルールで(神村)エリカはムエタイスタイルだから私はRENAを少しムエタイスタイルに変えました。色々な人が「RENAはKO負けするだろう」と言っていたみたいだけど、2週間教えた段階で私は「RENAが勝つ」と確信しました。
RENA ダムさんには「練習での頭はいい」って言われました(笑)。勉強とかはダメなんですけど(笑)。
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神村対策は「左」がカギだった、とダムさんは明かした。
ダム エリカは強い。左はパンチもミドルも強い。でも右はまったく問題ない。だからRENAには“左の防ぎ方”を徹底的に教えました。
1~5Rまでの戦略も立てた。
ダム エリカはとにかくパンチが強い。特に1、2Rは強くてこれまでもほとんどKOしてきた。でも3、4、5Rにその力をキープするのは難しい。彼女はテクニックよりもパワーを使うタイプだから。打ち合いは面白いからお客さんも喜ぶけど(笑)今回RENAはエリカ相手にそれをやったらダメ。RENAはテクニックを使って、特に1、2Rはパンチを防ぐことがポイントだったよ。
神村はプレッシャーをかけてコーナーやロープに追い詰めて連打する。ダムさんはRENAに足を使って詰めさせないこと。そして「先に攻めること」を徹底させた。
ダム RENAは凄く目がいいので、エリカの動きを見て前蹴りやジャブを上手く、早く、先に当てる。エリカの反撃のパンチを避けて「1回だけ」打たせました。
RENAはKOしたい。だから連打したい。でも連打すると「面白い打ち合い」になってエリカが大好きな試合になる(笑)。RENAが打つのは1発だけ。KOが出来なくても確実にポイントになる。
序盤からRENAは前蹴りで踏み込もうとする神村を止め、チャンスに得意の右ストレートを当てた。すべてダムさんの作戦通り。
スパーで「仮想神村」をしたのは及川会長だった。及川会長は上京してダムさんとRENAのミットを見て「神村対策」を確認。RENAは試合の1週間前に大阪に戻り、及川会長を相手に仕上げのスパーで「神村対策」の確認をした。
RENA 技術的なことはダムさんに教えて貰って、本当に神村さんの左フックの対策は出来てるのか、リアルな左フックは及川先生とのスパーでやって貰いました。及川先生は相手の物真似が上手いんです(笑)。神村さんの左フックは見てる限り、3、4パターンあるんですけど、及川先生に全部のパターンを真似して貰ったので試合では「あ、これ。次はこれ」って。神村さんにクリーンヒットされたのは1発か2発です。やっぱり蹴りよりもパンチの方が重かったですね。
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今年、RENAは低迷した。
怪我から復帰した今年4月、エキシビションで神村にダウンを奪われ、6月のSBクイーン決定戦では高橋藍に完敗。だが、そこで味わった屈辱が彼女を大きく成長させた。
RENA 自分自身がダメだったんです。自分から逃げてた。現実と向き合ってなかったんです。
昨年から及川会長に何度も「神村や高橋とはいずれ対戦するから研究しておくように」と言われていた。
RENA 私、映像を見るのがすごい苦痛なんですよ(苦笑)。見て楽しいのもあるんですけど、練習して、家でまた格闘技の映像は……。切り替えがほしくて「家でまで格闘技は考えたくない」って気持ちがあったんです。だから先生に言われて「家では嫌。じゃあジムで見る」って答えてたんですけど、ジムではそんな長く見られないじゃないですか(笑)。
自分では研究もしなかったです。先生に言われることを「はい、はい」って聞くだけで。その場、その場で言われたことは出来るんですけど、でもその後が大事ですよね。
どん底の状態で決まった神村戦。「勢いの差」で神村圧倒的優位という下馬評の中、RENAは必死に神村を研究する中で不思議な感覚にとらわれる。
RENA 神村さんを見てて「昔の自分」を見てる感じになったんですね(笑)。私も、自分で言い続けてきたベルト(SBクイーン)に挑戦した時は絶対に負けられなかったし(高橋藍に)ガンガン言いましたし。言うことによってもっと練習しないといけないので、自分を動かすために言うっていうことがありましたけど……、ベルトに執着しすぎちゃうんです。「取らなきゃいけない」っていう考えが守りなんです。戦いじゃないんですよ。「取るためにはどうするの?」って話じゃないですか。
だから(高橋戦は)感情のままにいっちゃいました。それで上手くいかないとイライラするし、スタミナ切れるのも早かったですし(苦笑)。
RENAの話す「高橋戦における自分」は、そのまま「RENA戦における神村」。
RENA 重なりましたね。同じだなって思いました。
ちなみに、神村戦を控えたインタビューでRENAは「勝って、言いたいことがある」と言っていた。
RENA ああ、もうすべて許せたんですよ(笑)。なんかもういいや、って。今の神村さんの気持ちも分かるし、絶対ここからどんどん変化していくだろうし。今回は勝ったからいいや、って(ニッコリ)
まあまあ、戦前の予想で色々言ってたらしいあの人やこの人にもひとこと言ってやろうと思ってたんですけど(笑) もういいです。勝って、髪も切ってスッキリしました(笑)。
崖っぷちからの大一番、浅草での長期合宿、敵地で相手ルールでの戦いと神村戦で得た経験は大きかった。
RENA 今までは自分の栄光であったり、これ勝ったら次はこうなって、って自分目線じゃないですか。でも今回は違いましたね。一人で闘ってるんじゃないなって思ったし、みんなを笑顔にしたいっていうのが一番大きかったです。及川先生は4月から控え室で一緒に泣いてくれたので、及川先生の喜んだ顔、笑顔にさせたいって思いましたし、シーザー会長やシーザージムの皆さんも笑顔になってくれて「ああ、SBの仲間なんだ」って思ってすごく嬉しかったです。
試合を終えて、性格も変わってきたという。
RENA 最近、そんなに怒らなくなったんですよー(笑)。格闘家の人って優しい人が多いじゃないですか。痛みを知ってるから優しいんですよね。そういう気持ちが分かってきて、人間的にも大きくなれたのかなって(笑)。今年はいろいろありましたから(笑)。ホントにもう厄年なんじゃないかって。本も書けますね(笑)。
ただし、神村戦の内容には満足しているわけではない。
RENA 終わったんだーっていう安心感みたいなものはあるにはあるんですけど、変な気持ちなんですよ(笑)。満足したかといえばそこまで満足してないし「あれ、勝った、よね?」みたいな(笑)。今回は全然出してない部分もあって、出せたのは60%ぐらいです。神村さんとは絶対にまたやることがあると思うんですけど、次はまだまだ出せてない部分を出せれば、っていう感じですね。
ダムトレーナーは「RENAはまだまだ伸びる。私が教えたらスーパースターになれるよ」という。
ダム RENAは51kgでは小さいけど、48kgでやれば誰もRENAにはかなわない。エリカでもRENAのスピードには付いていけないね。RENAはすでにパンチもキックもすべて出来るので、一流のテクニックを覚えたら魔裟斗のようなスーパースターになれると思う。後は……
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